ストラトキャスター

 大阪・扇町のバー。40歳ぐらいの体格のいいマスターが1人で切り盛りしている。決して洒落た雰囲気ではなく、古めかしく、ミシン油のにおいがただようような感じなのだが、何か、心にひっかかるものがあって、これまで数度訪れたことがあった。客に合わせてCDを流してくれる。


 昨夜、いつものようにマスターと会話を楽しんでいたところ、ふと壁にあるフェンダーストラトキャスターが目についた。いつ頃のものか。傷だらけで色はくすみ、ネック上の1〜3弦部分には弾きまくった跡の焦げ茶のシミがたくさんついていた。
 「ちょっと触らせて」
 抱えると1弦は切れていた。残る2〜6弦もいつ張ったものかわからないほど錆ついている。
 「14年間、アンプに通すことなく、ずっと飾っていました」
 マスターはさらに続ける。
 「事故に遭ったんですよ……」

 持ち主は大阪を中心に活動していたギタリスト。マスターとはなじみで、その昔はウルフルズのライバル的存在とまでいわれたバンドのメンバーだったという。14年前、不慮の交通事故で亡くなり、それ以来、仲間が店に置いたそうだ。
 アンプはなかったので、耳を近づけて5本の弦を操らせてもらった。「キーン」と心に響いた感じがした。
 店内にはいろんなミュージシャンやプロレスラー、若かりし頃の夏木マリまで無数の写真や額が飾られている。席から少し遠い、棚にあった小さなモノトーンの額が気になった。
 「誰?」
 「持ち主ですよ……」


 静寂が店内を包んだ。バックで流れていたドゥービーブラザーズのトム・ジョンストンの歌声も一瞬、消えたような気がした。
 31歳で逝ったというその人は、額の中で、帽子をかぶってギターを弾いていた。名前やバンド名は結局、聞かず、店を後にした。左手の指先には、まだ弦の余韻が残っている。
                   ◇―・◇・―◇

スマートフォンで撮影したため画像が粗いのはお許しください。

 そのバーに寄る前、初めて立ち寄った、これも扇町の居酒屋↓。能勢の酒「棚田」を頼み、サバの刺し身や総菜に舌鼓。いい店でした。