にれの町
〈見わたすかぎりのささ原や、
ぬまや、湿地や、林のなかに、
高いにれの木が一本あった。〉
小学校高学年の頃に教科書に載っていた「にれの町」の書き出しである。
印象深い詩だった。
北海道が切り拓かれていくさまを、にれの木の「目」を通して詠んだ作品だ。
作者は、知らなかったのだが、調べると、百田宗治さんという人。
にれの木の周囲のものたちがどんどん変わっていく。
ストーリー性のある、そこそこ長い詩。でも切れ味が鋭い。
〈にれの木は、なにもかも知っていた。
にれの木は、なにもかも見ていた。〉
次第にうさぎやりすの姿が見えなくなり、代わりに大きな道路が出来ていく。
詩の結びはこうだ。
〈北海道の札幌の町が、
こうしてできあがった。〉
ちょうど札幌五輪と重なって、トワ・エ・モアの「虹と雪のバラード」を思い出す。
〈町が出来る。美しい町が。〉
笠谷、青地、金野の「日の丸飛行隊」による70メートル級ジャンプ金、銀、銅の感動もよみがえる。
ところで、この詩に出会った当時、大阪は公害のまっただ中。
黄色い町だった。
校庭に赤い旗が揚がれば休校。
黄旗は注意しなさいとのしるし。
今も気管支系統が弱いのは、きっとそのせいだ。
百田さんは北海道の人かと思っていたが、ウィキペディアでみると、なんと大阪府出身とある。
もし大阪に、にれの木があったなら。
この地の変貌ぶりをどう表現してくれただろうか。
(にれの木のカット写真がないので、信州に住む友人農家のブログから拝借。何の木か知りません)